汚染環境中の微生物資源を利用した新しい環境技術への貢献

 濱村先生微生物は自然界のあらゆる所に存在しており、この地球上に生命体が誕生した瞬間から、地球環境は微生物たちの活動によって変化してきました。自然界にいる微生物は現在でも地球上の生態系を維持していく上で重要な役割を果たしています。
 近年、我々人間の活動によって環境中に様々な有害物質が排出され、地球レベルでの環境破壊が問題となっています。自然界には多種多様な微生物が存在し、環境を汚染している有害物質の浄化や無害化作用などの重要な役割をはたしています。私達の研究室では、環境中の微生物資源やゲノム情報を利用し、環境浄化に役立つ機能の探索や汚染物質の生態系へ及ぼす影響を調べています。

研究の特色

 土壌1グラム中には10億匹以上、1ミリリットルの海水中には10万匹以上の多種多様な微生物が存在しています。これまでは、これら環境中の微生物のうち実験室で培養できるのは1%以下で、99%以上の菌に関してはその機能や性質も明らかにされていませんでした。近年、最新のDNAシーケンス技術を使って、環境にいる微生物全ての遺伝子情報を解読するメタゲノムや遺伝子の発現応答を検出するメタトランスクリプトームなどの‘オミックス解析’が可能となりました。
 私達は、最新の環境オミックス手法を汚染環境の解析に応用して、微生物が汚染環境にどのように適応し、汚染物質の浄化や毒性低減化に関与するのかを遺伝子レベルで調べています。膨大な環境オミックス情報には、汚染などの環境破壊に対する微生物達の生存戦略が隠されています。このような新しい分野のビッグデータを解析するために、バイオインフォマティクスのツール開発から取り組み、様々な微生物種がお互いに関係しあって機能し汚染環境に適応している、これまでに見えなかったレベルでの包括的な解析が可能となりました。
  また、生物にとって有毒な汚染物質ですが、汚染環境にはその有害物質を利用して生育する微生物も多く存在します。そこで、有害物質を生物変換できる新規な微生物機能の発掘にも取り組んでいます。これまで、重金属を高濃度で含むイエローストーンの温泉群(アメリカ)や、モンゴルの塩湖、鉱山跡地などから、ヒ素やレアメタルでもあるアンチモンを変換する新規な細菌の培養に成功してきました。特に猛毒のヒ素などの重金属類は地殻に多く含まれる元素であり、環境条件の変化や微生物の活性によって地下水へと溶出し、汚染被害を引き起こすことがあります。このような自然由来の汚染が起こる機構については不明な点が多く、特に微生物の関与については明らかにされていません。そこで私達は、ヒ素や重金属を代謝する新しい微生物を見出すとともに、環境ゲノム解析を使って汚染物質の毒性を左右する微生物の環境中での働きを調べています。
 草も生えない汚染された鉱山跡地や、真っ黒な重油で汚染された海、100度近い熱湯が吹き出す温泉、このような環境でも微生物は活動を続けていますが、ミクロの世界での活動は目に見える自然の営みにどのような影